光呼吸(寒冷地型芝草と暖地型芝草の違い) | 2011年01月30日 |
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光呼吸とは植物が光合成する回路を稼働させるエネルギーを作るための呼吸のことです。寒冷地型芝草(ケンタッキーブルーグラスやベント芝など)は光呼吸で空気中から酸素を取り込み、葉身にある炭水化物をエネルギーに変えて光合成を行います。人間が呼吸により空気中から酸素を取り込み体内の炭水化物をエネルギーにして活動するのと同じですね。寒冷地型芝草は光合成により造られた炭水化物を葉身にあまり貯めることができません。そこで常に光呼吸で光合成を行い必要なエネルギーを作り出すので、冬でも青々と緑を保つことができるのです。寒冷地型芝草の最適光合成温度は20℃から35℃です。 (杉並区久我山 T邸屋上の西洋芝 12月28日撮影)
一方、暖地型芝草(高麗芝やバミューダグラス等)は外気温度を利用して光合成活動を行い炭水化物を葉身に貯め込みます。光呼吸をしない暖地型芝草は光合成の活動期間が外気温度に制約されます。日本のように秋以降の気温が20℃以下になる気候では寒くなると芝草は光合成を休止します。暖地型芝草の最適光合成温度は30℃から45℃です。 (渋谷区千駄ヶ谷 東京体育館前の高麗芝 1月26日撮影)
最適光合成温度が20℃から35℃の寒冷地型芝草にとって、真夏の東京のように平均気温が27℃以上の環境は、植物の光呼吸が活発になりすぎて消耗度も高まります。寒冷地型芝草の光呼吸により消費される炭水化物の量は、光合成により造られる炭水化物の量の最大値で30%になるそうですが、真夏の東京では光呼吸の最大値のエネルギーが消耗されます。さらに真夏の暑さの中で寒冷地型芝草は、体内の水分を葉脈を通して蒸発さえて気化熱の働きで葉身の温度を下げる活動のために、蓄えられた炭水化物を消費します。(大田区産業プラザPIO の西洋芝8月30日撮影)
コンクリートやアスファルトに覆われた真夏の東京は、寒冷地型芝草が生きながらえるためには過酷な環境です。このような環境の中でガーデンクリート都市緑化システムは、寒冷地型芝草が生育できるように様々な工夫がされています。 (新宿事務所のベランダ: ガーデンクリートと灌水システムで育てている芝生の様子です。左が西洋芝、右が高麗芝 1月28日撮影)
太陽からの光量の少ない冬の間は葉を長くのばして、なるべく多くの光が葉の葉緑素に取り込まれるようにしています。 関連ブログ:光合成と芝生の呼吸 猛暑の夏を乗り切って
冬の屋上の庭 | 2011年01月23日 |
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東京都杉並区久我山のT邸屋上でガーデンクリート都市緑化システムの上で西洋芝や野菜を育てて1年がたちました。昨年の夏の東京は例年になく暑い日が続き、西洋芝もややバテ気味でしたが(野菜は元気でした。)西洋芝の種「年中無休」のオーバーシードなどで夏を乗り切り再び元気に冬を迎えました。12月28日撮影
ガーデンクリート都市緑化システムではガーデンクリートの厚み3cmの上に芝生の場合は土が約1cm、野菜の場合は約15cmほどの厚みで植物を育てます。T邸屋上は一日を通して日当たりと風通しがよく植物を育てるには絶好の環境です。12月の末にもかかわらずピーマンやトマトがまだ実を付けていました。
最近の東京の気候は雨が少ないのですが、オーナーのT様のお話では水は自動灌水と天然の雨水で間に合っているそうです。
昨年の8月の東京の一日の最高気温の平均は33.5度、最低気温の平均は27度だったようです。東京の屋上の50%が芝生や野菜などで緑化されると気温が0.11度から0.84度下がるという試算もあります。(Tropical Urban Heat Island 74P参照)コンクリートやアスファルトに覆われた都市環境の中でガーデンクリート都市緑化システムは植物が元気に育つ舞台装置を提供しています。 参考ブログ:Tsビル屋上緑化 ガーデンクリートで花壇を作る 屋上菜園
ガーデンクリートと断熱材との違い | 2011年01月16日 |
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個体では熱は熱源から温度の低い所に向けて伝わります。熱伝導率(W/mK)は厚さ1mの素材の両端に1度の温度差があるときに、その素材1㎡を通して1秒間に流れる熱量を表す数値です。建物の屋上を緑化することで建物に直接あたる太陽からの放射熱を和らげます。建物の躯体によく使われるコンクリートの熱伝導率は1.6W/mKです。これは乾燥した空気(熱伝導率0.024W/mK)を閉じ込めた断熱材グラスウールやポリエチレンフォーム等の熱伝導率0.038W/mKと比べると42倍も高くそれだけ太陽からの放射熱を建物内部に伝えやすいという事ですね。そこでコンクリートの建物の屋上にはこれらの断熱材を使用して太陽からの放射熱を断熱するケースが増えています。しかしコンクリートの熱伝導率が高いということは、建物の内部の熱を外部に放射しやすいという特性もあります。真夏の東京でも夜になると建物の外部の気温は30度以下になりますね。昼間の太陽からの放射熱でコンクリートの内部にこもった熱も、夜になると気温の下がった外気に放射されます。ところがコンクリートの外側に断熱材があると、この放射熱が遮られる事も確かです。
屋上にガーデンクリートが敷かれている場合はどうでしょうか?ガーデンクリートの比重は乾燥状態で約900kg/m3前後です。またガーデンクリートの熱伝導率は0.16W/mKでコンクリートの1/9、そしてグラスウールなどの断熱材と比べると約4.5倍ほど高い数値です。また保水されたガーデンクリートの比重は約1200kg/m3で熱伝導率は0.3W/mKです。
保水されたガーデンクリートがコンクリートと同じように太陽からの放射熱を直接に建物の内部に伝えるかというとそうではありません。 ここで気化熱という素晴らしい自然エネルギーの特性が発揮されるのです。1グラムの水が蒸発するときに約540カロリーの熱を表面から奪います。太陽からの放射熱を直接受けた保水されたガーデンクリートの表面温度がコンクリートや鉄板の表面温度よりも10度ほど低い理由はそのためですね。(上図グラフ参照) 保水されたガーデンクリートは、およそ300㍑/㎥の水を保水します。そしてガーデンクリートに保水された水が、気化熱の働きで建物に伝わる太陽からの放射熱を軽減します。また夜になると、熱伝導率がグラスウールなどの断熱材より高い、水を含んだガーデンクリートが建物にこもった熱を屋外に効率よく放射します。
熱伝導率の低い素材は熱伝導率が高い素材よりも時間当たりに伝導される熱量が少なく、熱が伝わる時間を遅らせることはできますが、熱量そのものを減らすことはできません。ところが保水したガーデンクリートは水が気化するときに、表面にある熱エネルギーを水1グラム当たり540カロリー奪うことができるのです。 一年を通して太陽から大量の放射熱が当たる熱帯では、ガーデンクリートの保水性を維持し気化熱の働きを利用して温度を下げるのが効果的な利用方法です。 参考ブログ:自然エネルギーを利用した温帯の技 ガーデンクリート屋上芝生緑化の温度測定
自然エネルギーを利用した温帯の技 | 2011年01月09日 |
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日本の夏も高温多湿の熱帯に似た環境です。このような気候の中で、かやぶき屋根や京都の坪庭のような自然エネルギーを利用した住環境の整備の技が伝統的に継承されて来ました。ガーデンクリートを屋根や屋上に乗せてスプリンクラーで散水したり芝生などの植物を育てることで、太陽からの放射熱が建物に直接当たるのを防ぎ、かやぶき屋根と同じような冷却効果を生みます。耐火性のあるガーデンクリートは防火性性能が求められる都市環境に最適で現代のかやぶき屋根の役割を果たします。
山武様伊勢原工場の屋上ではガーデンクリートの上で芝生を育てていますが、屋上の下の階の天井の温度を測定したところ、芝生とガーデンクリートで覆われた場所の真下の天井の表面温度と、コンクリートがむき出しになった屋上の真下の天井の表面温度との間におよそ1度から2度の温度差が見られました。これは芝生とガーデンクリートに含まれた水分が、太陽の放射熱で蒸発(気化)するときに、水1グラム当たり約540カロリーの熱エネルギーを屋上の表面より奪うからです。(芝生とガーデンクリートに覆われた屋上の真下の階の天井の表面温度 26.5℃~29.2℃)
冷暖房設定温度と消費エネルギーの関係で、冷暖房それぞれについて設定温度を1度変更すると、熱源で消費されるエネルギーが約10%削減されるといわれています。壁面の温度差も加味しなければ正確な数値はわかりませんが、気化熱という自然エネルギーを使用することで、化石燃料の消費を押さえることが可能です。(コンクリートむき出しの屋上の真下の階の天井の表面温度28.8℃~30.6℃ 写真提供:尾瀬林業様)
またミサワホーム東京様と共同開発して、灌水システムを埋め込んだガーデンクリートを敷きつめて、京都の坪庭に似た環境を作り、自然の風が起きる庭を作りました。
これら日本の自然環境から生み出された技術を熱帯の都市でも活したいものです。 参考ブログ・サイト 朝倉彫塑館 ヒートアイランド対策に ガーデンクリート屋上芝生緑化の温度測定
温帯と熱帯の技術の融合 | 2011年01月02日 |
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熱帯の国々の多くが第2次世界大戦後に独立を果たし新しい都市造りを進めてきましたが、その参考となったのが欧米の都市構造です。主に温帯の自然の中で形成された欧米の都市造りの技術が熱帯に移転されて都市の近代化が図られましたが、それに伴い熱帯環境に適した従来からの技術が失われたのも確かです。熱帯の伝統的な住環境ではヤシなどの植物を利用して木陰を作ったり、自然な風の流れを採りいれたりして結構快適な暮らしをしていたようです。住宅と店舗が一体化した建物を回廊で繋いだ伝統的なショップハウスも、熱帯の環境にに対応した建物です。店を繋ぐ回廊は直射日光を遮り風通しも良く、心地よい空間を提供します。 ( Little India : Singapore)
欧米を中心に築かれてきた都市構造では、建物の内部と外部の環境を遮断してエアコン等を利用して快適な室内空間を作り出します。暑い夏にはエアコンで室内を冷し冬は暖房します。熱帯の建物では一年を通してビルの内部をエアコンで冷房していますが、室内の快適な環境を維持するために電力の50%以上が冷房用のエアコンの稼働のために使用されているようです。 (イギリスの植民地時代の雰囲気を残す天井の高いコロニアルな回廊 Singapore)
今、熱帯の都市では、自然エネルギーを活用して快適な生活環境を維持してきた熱帯の伝統的な住環境の手法と、温帯の発想に基づく電力など人為的なエネルギーで快適な生活環境を作り出す手法とのコラボレーションが始まっています。
果物のドリアンに似たドーム型の建物 esplanade Singapore